「球児の肘を守る」Vol.2

慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師に聞く

公益財団法人「運動器の健康・日本協会」が2015~16年に行った小中学生の野球選手を対象にした全国調査では、投手は小学生の約58%、中学生は約67%が肘などの痛みを経験していたことが明らかになっています。

古島弘三医師は「これも世界的にみて異常な数字」と指摘します。

ーー指導者に求めたいことは何ですか

考えてほしいのは子どもの体は未成熟ということです。

成長期は骨も関節も弱い。

軟骨は痛みやすいのです。

おとなが考えるよりも簡単に壊れてしまう。

それを防ぐには、練習量や投げる数をしっかりと制御することです。

練習時間は、1週間でいえば、その子の年齢を基準にする。

12歳なら12時間以下。

1日なら3時間程度です。

投球数は米国で示されているピッチスマート(表)などを参考にしてほしい。

そうすれば障害の発生率は大きく減らすことが出来ます。

ーー連長や練習過多など疲れた状態で投げると、どんな問題がありますか。

肩や肘に障害をきたすのはいろいろな要因がありますが、とくに疲労は危険な要素です。

しばしば疲れを感じている場合の障害発生率は4倍に上がります。

さらに、これを常に感じプレー、練習をしていると36倍にはね上がります。

同時に疲れはくせものでなかなか目に見えない。

野球の場合、疲れていても投げられてしまいます。

だから先ほどいった練習時間や投球数で制限してあげることが必要です。

ーー疲れは他にどんな問題を生じますか。

寝ているときに分泌される成長ホルモンに影響します。

これは”万能のホルモン”といわれ、子どもの成長に不可欠です。

体の成長、けがを癒す力、精神的な安定、脳の発達にも関わります。

練習で疲れすぎたり、朝練で十分な睡眠がとれなかったり、いつも指導者から怒鳴られるなどのストレスや緊張状態が続くこともその分泌に影響します。

ーー先生は学童期の障害をなくすことが大切だと指摘されています。

深刻なのは小学生で肘を痛めた場合、約半数が高校生で再発することです。

一方、この時期に痛めなければ、その後の発症率を10%以下に抑えられることが私の調査でわかっています。

つまり、野球人生の要は学童時期にあります。

この時期に障害を起こさない指導、無理のない環境をつくれば、肘の障害は大きく減らせます。

そのことを全国の指導者に声を大にして言いたいと思います。

障害減 要は学童期

 

(2019年8月5日しんぶん赤旗より)