当協会顧問の古島弘三先生がアドバイスをして変わったチームのご紹介

機動破壊から投手王国へ 健大高崎の投手育成改革

2011年夏に初めて甲子園出場を果たした健大高崎。選抜3回はすべてベスト8以上、夏3回とも一勝以上しており、通算13勝6敗と、驚異的な勝率を誇る。健大高崎は走塁で相手をかく乱する「機動破壊」で大きなインパクトを残した。今の健大高崎は機動力だけではなく、投手育成にも力を入れ始めた。

その結果、新2,3年生の投手17人のうち140キロ超えが7人。ほとんどが130キロ~130キロ後半を投げるレベルにまでに達した。投手王国を目指そうとしている健大高崎の改革に迫る。

古島医師からの進言から始まった投手改革

 


左腕・下慎之介

機動破壊で有名になった健大高崎。まずオフェンス面から優先的に力を入れたように、プロ入りした選手を振り返ると、野手が多い。2014年の脇本 直人(元千葉ロッテ)、2017年の湯浅 大(巨人)、2018年の山下 航汰(巨人)、また東北福祉大学を経由した長坂 拳弥(阪神)、Honda鈴鹿を経由した柘植 世那(埼玉西武)。投手のプロ入りは三ッ間卓也(中日)しかいない。

だが、まったく好投手がいないわけではない。2017年選抜出場の小野 大夏(Honda)は高校時代、145キロ右腕だったが、今では150キロを超える速球派右腕へ成長し、ドラフト候補に挙がる。過去に健大高崎を指導していても、投手のメカニック、分業制にこだわっているチームだった。

 転機となったのは2019年。健大高崎は慶友整形外科病院でスポーツ医学センター長を務め、「球数制限」の議論をめぐって、メディアからも注目されている古島 弘三医師からアドバイスを受け、3時間の講義を受けた。

青柳監督をはじめとした、健大高崎スタッフは古島医師のアドバイスを受け入れ、方針を転換した。
・1週間の球数は100球以内
・土日の練習試合の登板日は事前に決定
 ・連投は原則禁止

 このルールで、1週間、選手はそれぞれで投球練習の球数を決め、それ以外は初動負荷トレーニング、ウエイトトレーニングなどを行い、登板日にベストの力を発揮できるように調整を行う。球数は生方啓介部長が管理。その結果、故障がほとんど減ったという。

この方針の狙いは選手自身が実力を発揮できるように、自ら考えて取り組まないけない点だ。指導者に縛られない分、楽ではある。しかし結果を出さなければ、すぐにBチームに振り分けられる。現在、エースを務める左腕・下 慎之介
「常に結果を出さないといけないプレッシャーはありますし、それぐらいレベルが高いです」と語る。また球数制限をすることで投球練習の考え方が変わってきた。

 

球数制限は選手の思考力を高める

 


橋本 拳汰(健大高崎)

「中学の時は調子が良ければ、20球ぐらいで済ませていました。調子が悪いとしっくりいくまで100球以上投げていました。今振り返れば漠然とした投球練習だったと思います。今では3球1セット、5球1セット。そしてカウントを設定して投げます。このカウントから初球はカーブから入ろう。ストレートから入ろうとか、実戦で投げるイメージです」

そうすると好不調に関わらず、いつでも自分の実力を発揮できるようになったという。
「以前は調子の良し悪しで内容が変わる感じでしたが、今では調子が悪くてもコースで投げられますし、試合を作れるようになりました」
球数を抑えることは故障を防ぐだけではなく、決められた球数の中で効果的な練習をするために選手の思考力を養ったのである。

投球練習以外では可動域を広げるために初動負荷のトレーニングを行ったり、ウエイトトレーニングを行う。練習中、投手陣の動きをみると、フォームの確認にかなり時間をおいている。タブレットで動画を撮影してもらいフォームを確認する選手もいれば、タオルを使わずにシャドーピッチングする選手がいる。タオルを使わないシャドーピッチングこそ健大高崎なりのこだわりがあるという。エース・下はこう語る。

「タオルでやってしまうと、どうしても感覚が変わってしまうので、なるべくタオルを使わずに腕を振ることを意識しています。トレーニングでボールを速くすることはできるんですけど、やはり良いフォームで投げることが故障を防ぎますし、コントロール、球速を高めるので、フォームの動きについてチェックをしています」

そして142キロ右腕の橋本 拳汰は「このシャドーは傾斜のあるマウンドで実行しています。やはり平地と傾斜があるところで投げるだけでも全然違います」

実戦に即した投球練習、メカニックにこだわったフォームドリル、ウエイトトレーニング、初動負荷トレーニングなど合理的な練習を積み重ねた結果、140キロを投げられる投手は7人もいる。その7名は以下の通り。
下 慎之介(新3年)182センチ75キロ 左
工藤 慈(新3年)176センチ78キロ 右
大江 立樹(新3年)183センチ75キロ 右
櫻井 秀太(新3年)178センチ81キロ 右
鈴木 威琉(新3年)178センチ73キロ 右
橋本 拳汰(新3年)191センチ85キロ 右
今仲 泰一(新2年)178センチ68キロ 右

取材した2月時点のデータなので、3月、4月に入っても7人以外の投手が140キロを超える可能性はもちろんあるという。この方針の狙いは、甲子園ではなく、次のステージでも活躍できる選手の育成だ。青柳監督によると、今年、卒業する選手のほとんどが大学でも野球を続けることが決まっている。

今後について、現在の3年生について聞いてみた。プロ注目の下、橋本拳の二枚看板はプロを目標において練習を重ねているが、これまであまりベンチ入りの機会がなかった140キロ右腕・大江も「もちろん高校卒業後も続けることを考えています」と語り、真剣な表情でトレーニングを行っていた。

140キロを投げたとしても必ずしもベンチに入れるわけではない。かといって次のステージで続けるためのサポートを行う。健大高崎の育成システムが確立し、結果を出していけば、入部する投手のレベルはさらに高まるだろう。

数年後には全国の強豪校も寄せ付けない投手王国になる可能性は十分にある。

(取材=河嶋 宗一

 

▼引用先URL(高校野球ドットコム)

https://www.hb-nippon.com/column/437-baseballclub/14488-20200314no0123