「球児の肘を守る」Vol.3

慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師に聞く

ーー子どもたちの肘の状況を詳しく教えてください。

14,15歳くらいまでの子どもの肘の関節の骨は非常に柔らかい軟骨です。

少しの衝撃でへこんでしまうほどです。

その軟骨に何度も刺激が加わるとどうなるか。

成長している軟骨部分の骨端線が早く閉じてしまって伸びなくなってしまいます。

体操選手に背が低い選手が多いのは、小さいうちから強度のとレーニングをしている結果です。

筋力も鍛える事で余計に骨が伸びなくなります。

野球選手も小さいうちから余計に走らせると身長の伸びも止まってしまいます。

ーー障害はその延長上で起きるのですか。

骨同士ボロボロ

特に肘の外側はそうです。

画像で見ると骨の表面は滑らかですが、投げすぎることで骨同士がぶつかり、血流が悪くなって、骨に栄養が行かなくなります。

その結果、骨が腐ってしまうような状態になります。

表面がボロボロでお年寄りでもこんなにはならないというくらいになってしまいます。

こうなると手術しかありません。

膝の骨軟骨をくり抜き、肘の悪いところにドリルで穴をあけ埋め込みます。

つまり骨軟骨移植をします。

ーーひじの内側はどんな障害がありますか。

骨と骨をつなぐじん帯をいためるケースが多い。

小学生の場合、骨が弱いのでじん帯が付け根からパリンと剥がれてしまいます。

裂離骨折いいます。

4日間連続150球投げさせられた子供がこうなって、当院にきたことがあります。

大きな骨片がじん帯の付着部骨折を起こしてしまいます。

短期間でなってしまうし、遠投の衝撃でなることもあります。

こうなってしまうと骨を固定する手術をしなければならないこともあります。

中学生以上になると、じん帯に傷がついたり、伸びてしまったりという事態にになります。

じん帯は、休んだらよくなるものではありません。

一度、傷ついたらどんどん蓄積されていく。

緩んでしまったらもとに戻ることはありません。

傷がつけばつくほど、伸ばせば伸ばすほど蓄積され、痛めやすくなる。

だから投げすぎは、中高生以上も要注意です。

ーー内側と外側の障害はどのくらいの割合で発生するのですか。

1,500人ほどの少年野球の検査をしたことがあります。

そのときに内側の障害は540人(30%)、外側の障害は46名(3%)いました。

12歳以下の日本代表の小学生を調べてみて驚きました。

15人中、内側の障害が10名(67%)、外側の障害が3日(20%)もいたのです。

これは平均よりはるかに高い。

うまい子ほど、練習量や試合の数が多く障害の発生率が高いことを示しています。

ーーこれは日本に特有の傾向ですか。

ドミニカに学ぶ

私は以前、ドミニカ共和国に調査に行ったことがあります。

向こうの子どもたちは、おおらかな環境で野球をしています。

練習時間も短く、試合で追い込まれる事がありません。

決定的なのは指導者の姿勢です。

健康を守ることを第一にしています。

調査をしてみて驚きました。

ドミニカの子たちは、肘の内側の障害は18%、外側の障害は0%で1人もいませんでした。

日本よりはるかに少ないのです。

ドミニカは多くの大リーガーを輩出しています。

今年は882人中102人がドミニカ出身です。

日本人は6名ですから、そこから学ぶことは決して少なくありません。

小学生1/3以上に障害

 

(2019年8月6日しんぶん赤旗より)