「球児の肘を守る」Vol.5

慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師に聞く

ーードミニカ共和国で少年野球を見てどんな発見が。

ドミニカの選手がなぜ成長できるのか。

その理由がわかった気がします。

外からみていると指導者は、子どもたちを遊ばせているだけのように見えました。

何も言わない、怒鳴らない。

練習時間は3時間ほどと短いのです。

技術的な指導も教え込む日本とは異なります。

向こうの小学生は、中高生などの選手をまねて形を覚える。

自分で観察して、やってみて、かっこつけてみる。

試合でエラーや三振をしても指導者は怒鳴るどころか「ナイストライ」です。

少年世代には「いまのうちに失敗しておけ」という考え方です。

個性伸ばす指導

ーー指導者の出番はどんな時ですか。

見逃し三振など積極的にトライできなかった時です。

「どうして打たなかったの」と聞いたり、いっしょに改善策を考えたり。

でも、答えは与えません。

もちろん、日本のように怒声罵声の威圧的な言葉は一切ありません。

このように選手はのびのびやっているので、一人ひとりのスケールが大きくなるのだと思いました。

投手は投げ込みをしていないのに球が速いし、素振りも大してしていないのに打球も強くホームラン性のあたりがポーンと飛んでいく。

粗削りでミスが多いものの、きらりと光る個性がよく見えるのです。

ーー日本の指導との違いはなんでしょうか。

考え方ですかね。

例えば足が速い子がいたら、日本では走るより守備や打撃の練習をやらせ、欠点の無い選手にしようとします。

ドミニカはもっと足を速くしようと。

打撃や守備は後でいいから長所を伸ばすことがうまいなと思いました。

選手は打撃や守備がうまくいかないと自分で壁にぶつかります。

その時、自分で考え苦手な分野の練習を始めます。

自発的にうまくなろうとする。

指導者はそれを待っているのかもしれません。

つまり向こうの指導者は、選手をけがから守ることを第一にし、野球を好きになってもらう事を考える。

いいところを見つけてほめ、自分で考える力を育ててあげています。

知識伝える活動

ーー群馬県スポーツ少年団で指導者講習をされていますね。

少年野球の指導者を対象にした講習です。

ライセンス制度といって、講習を受けてポイントをもらわないと指導者はベンチに入れない仕組みです。

講習といっても2,3時間で、故障に関する基本的な知識の話をしています。

県の指導者800人ほどが対象で、講習では肘の手術の動画もみてもらって、「こんなふうになっちゃうのです」と。

好きな野球で体に障害が残ることは極力なくしたい。

そんな思いからやっていることです。

ーーみずからチームも作られています。

今年、中学生のチームを立ち上げました。

最終的には、こちらからあれこれ指示するのではなく、自分で考える力を持った選手を育てたい。

座学も取り入れて医学、トレーニング学、栄養、メンタルの話も含めて、自分で判断できる知識を育みたいと思っています。

5年、10年後に全員がプロになれるわけではありません。

野球を通じて自分で考える力をつけて社会で活躍できる人間に育ってくれたらというのが、私の願いです。

考える選手育てて

 

(2019年8月8日しんぶん赤旗より)