「球児の肘を守る」Vol.4

慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師に聞く

今夏の甲子園から準決勝翌日にも休養日が1日設けられました。

休養日が増えたことはいい事です。

しかし、それで事足りるかというと、決してそんなことはありません。

投手の事を考えるなら、1週間程度あけないといけいない。

大学やプロを目指す選手も多いと思いますが、ここでの無理はのちのち体に響くことは間違いありません。

前にもいったように疲労の蓄積は大敵です。

問題を深刻にするのは、野球の投手は多少疲れていても投げることができてしまう点です。

うまい投手は球速が多少落ちても打ち取るすべを持っています。

だから「ピッチスマート」のような客観的な指標で投球を制限する必要があると思います。

故障と投げすぎ

ーー日本高校野球連盟は今春から球数制限の議論を開始しました。

高校生も含めて肘を壊す一番の要因は投球数の多さです。

多ければ多いほど故障につながる確率は高まりますし、投げてから休養期間をしっかりとらないといけない事は何度も話してきました。

それだけに球数制限は、故障を防ぐ対策で最も有効なものだと思っています。

ーー球数制限が導入されると複数投手が必要になります。

たくさん育てたらいいのです。

ルールが変われば、最初は大変でも次第にそれに合わせた対応が出来てくるはずです。

小学生段階からチームで多くの選手が投手を経験する。

これは長期的にみれば、投手を育てる積極的なルールです。

何を恐れることがあるのか。

いまは古い勝利至上主義と新しいプレーズファーストの考え方が混在し、ぶつかりあっている時期。

後者の立場の改革を進めるべきです。

第一に選手を守れ

ーー選手を守ることが第一だと。

そうです。

それが指導者の一番の役割です。

けがしてもいいとか、高校では野球は終わりだから故障もやむを得ないとの考え方は、スポーツを逸脱しています。

そこまでして勝とうという勝利至上主義的な考え方を抜本的に改めて必要があります。

甲子園という舞台が悪いといっているのではありません。

でも悪い状況をずっと生み出してしまっている。

そこをいい方向に変えないといけません。

ーープロ野球も変わる必要がありますか。

2006年の第一回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で球数制限が導入されました。

その後、日本でも変わると思ったのですが、そうではなかった。

投球数を減らし故障を防ぐという考え方は、最先端の大リーグでもやっています。

ドジャースの前田健太選手は試合と試合の間の投げ込みの数を減らすことに努力しています。

4,5日の間に投げるのはたった15球。

しかも6,7割の力で。

これで年間1,300球以上減らしているそうです。

ーー球数制限でほかに期待できることは。

これは指導者を守ることにもつながります。

勝っている試合で投球数を考えて投手を代えたとします。

逆転されたら指導者が責められます。

今回の大船渡高校の監督も佐々木朗希(ささき・ろうき)投手を決勝で登板させなかったことで学校に批判が殺到していると。

悲しい事です。

球数制限をルール化することは、まっとうな選択をする指導者を守ることになります。

高野連はすぐにでも決断すべきです。

球数制限 最も有効

 

(2019年8月7日しんぶん赤旗より)